【青春】カカシの夏休み/重松清


✓学校の先生
✓しんみりとした気分になりたい人
✓家族がテーマの本
人生は子供の頃に思い描いていたほど、うまくいかないと諭してくれる一冊。
同時に家族との関わりについて考えさせられました。
あらすじ
人生も半ばを過ぎた。安らぎを、生きる拠り所をどこに見出せばいいのか——。現代の家族を描き続ける作家の決定版″家族の肖像″
ダムの底に沈んだ故郷を出て二十年、旧友の死が三十代も半ばを過ぎた同級生たちを再会させた。帰りたい、あの場所に——。家庭に仕事に難題を抱え、人生の重みに喘(あえ)ぐ者たちを、励ましに満ちた視線で描く表題作始め三編を
収録。現代の家族、教育をテーマに次々と話題作を発信し続ける著者の記念碑的作品集。解説・松田哲夫
こちらは学校の先生が主人公の3編の短編小説が書かれています。
カカシの夏休み
主人公のコンタは小学校教師。ある問題のある生徒に悩まされていた。
ある日中学校の同級生のコウジが不慮の事故で死んだと連絡がきた。
葬儀で何十年ぶりに再会した故郷の友人、アダ、シュウ、ユミで故郷について懐かしみ、お互いの境遇の変化を感じる。
彼らの故郷は、現在ダムの下に沈んでいる。しかしここ数日故郷のダムは干上がってきていることを知り、コウジのお骨を連れ故郷へ帰るーーーー
ライオン先生
高校の教師を務める、長髪の立て髪が立派なライオン先生。
熱血教師であり、生徒との距離が近い事が自分の強みと感じていた。
しかし、年齢を重ねるごとに自慢の立髪は禿げ上がってゆき、カツラをするようになった。
「ライオン先生」というキャラを捨てられず、禿げを隠し通そうとする。
ある生徒が登校拒否になり、原因はその父親との関係にあった。
父親はこうあるべき、オトナはこうあるもの。という概念を見つめ直し、ライオン先生自身も心境の変化が起きる。
未来
みゆきは高校を中退しボランティア活動に勤しんでいる。
高校中退の理由はあるクラスメイトの自殺が原因。
ある日弟の政人のクラスメイトがいじめを苦にして自殺した。
そして遺書にはいじめの主犯として、弟の名前が記されていた。
クラスメイトの自殺とその後に残った人たちの想いはーー。
感想
3編の中では、ライオン先生が好きです。
著書の後書きにも紹介されていますが、それぞれ「帰りたい場所」「歳をとること」「死」についてのお話です。
カカシの夏休み
「ダムの底に沈んでしまった故郷」ってかなり切ないテーマです。
もう二度と帰れない場所。。。
登場人物たちが故郷にそれぞれの気持ちを抱えながら、干上がったダムの底の故郷に向かう。
ダムって洪水調整や利水補給などなくてはならない存在だと思っています。
近年水害などで被害にあう地域のニュースをよく見かけました。
でも実際自分の故郷が無くなってしまうと思うと複雑な気持ちです。。。
登場人物たちの中学の時は「無邪気な友人同士」だった関係が大人の生活、それぞれの社会によって少しひずみが生まれてしまうのがリアルに感じました。
(コウジの遺灰を子供たちに持たせる場面)
「この軽さ、覚えとけよ。なっ?」P166 カカシの夏休み/文春文庫
このあと「37年の人生って、軽いね」と続きます。
どんなに辛くても楽しくても最後は遺灰になる。人生儚いなぁと感じました。
ライオン先生
年齢の変化には抗えない。。。
お話の中で、ライオン先生は年齢が離れるほど生徒との距離があく感じに虚しさを覚えています。
自分が学生の頃は、先生のことはやや疎ましく感じたりする事もありましたが、いざ社会人になって感じるのは「学校の先生」の立場って難しいなぁと。
大学生は先生とはほぼ他人のように感じますが、小〜高校生は家庭環境もある程度知られていて、先生を身近に感じます。
いい先生ってどういう先生なんでしょうか。
ライオン先生みたいな先生は今は絶滅してしまったのでしょうか。
学校は素晴らしい場所なんだぞって、誰かが言わないと、言いつづけないと、ほんとうにどうしようもなくなっちゃう ような気がするんだ
p247 ライン先生/文春文庫
ライオン先生が不登校になってしまった生徒について同僚の教職員と話している場面です。
もう、そうよ!学校の先生が言ってくれないと生徒は学校に行く理由が見つからないよ!と共感してしまったセリフです。
未来
クラスメイトの自殺。なかなか経験する機会が少ないテーマです。
学校でのいじめって大なり小なり必ずあります。
子供は嫌だという抑止力が乏しかったり、人付き合いの折り合いを大人ほど上手にする事ができません。(大人になってのいじめは稀にあるようですが。。)
そこをどう解決していくか。自殺をしてしまったら解決策がもうありません。
命を自分で区切るのはとても重い決断です。世の中には何億と人がいます。
誰でも何にでもいいから、出口を見つけられるようにしたいです。